私説 小倉百人一首 No.18 藤原敏行朝臣

藤原敏行朝臣

すみの江の岸による浪よるさへや
       ゆめのかよひ路人めよくらむ

【歌の背景】宇多天皇の母后班子親王の御殿で催された歌合に詠んだ歌。「住の江の岸による浪」までは「夜」を言い出すための序として使われている。住の江は住吉の古称。

【歌 意】かつて難波の都があり殷賑を極めた住の江の浦。そこに寄せる波のように、あなたに寄り添い一つになりたいと願っている私なのに、昼間実際に通って行く道でならともかく、夜でさえも夢の中で通って行く道においてまで、どうしてこんなに人目を避けるのであろうか。

【作者のプロフィル】従四位下陸奥出羽按察使富士麿の長男。母は刑部卿紀名虎のむすめで、妻が在原業平の妻の妹だったことから、業平らのグループと親しかった。仁和2年6月に従六位上、左兵衛権佐、右近少将、さらに右衛門督になる。彼の代表作は『古今和歌集』に収められている「秋きぬと目にはさやかに見えねども 風の音にぞ驚かれぬる」で、優れた歌として名高い。没年については二説ある。昌泰4年(901)、延喜7年(907)のいずれか不明。若死にだったようだ。