2050年の脱炭素社会実現に向け、政府や企業が燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない水素の本格活用に向けた動きを加速させている。自動車や船舶、発電の燃料として有望視されるがコスト削減や安定調達など課題は多い。
日本政府は6月中に決定する成長戦略で、2030年までに水素ステーションを現在の約160基から1,000基まで増設する方針だ。菅首相は2035年までに新車販売はすべて電動車にするとの目標を掲げており、補給拠点の大幅拡充など政策面で後押しする。
企業も技術開発に全力を挙げる。トヨタ自動車は5月、24時間耐久レースで水素エンジン車完走させた。水素と酸素の化学反応で生じる電気でモーターを回す燃料電池車(FCV)とは違い、水素エンジン車は水素を直接燃やして動力源にする。燃費性能に課題は残るが、ガソリン車の部品を多く流用できるためコスト抑制や雇用維持につながる強みがある。
岩谷産業は液化水素や水素ガスの製造・輸送を手掛ける。2025年の大阪・関西万博では、夢洲会場と大阪市内を結ぶ水素ガス燃料の旅客船の実現を目指している。水素の運搬船を開発した川崎重工業は、2025年に全長約300mの大型船を建造し、液化水素の供給網構築を狙う。
電力業界は水素などを活用し、依存度が高い火力発電の脱炭素化をを掲げる。ただ、そのためには海外からの安価で安定した調達体制が不可欠だ。