2025年に国内で早期・希望退職を募集した上場企業による人員削減が進行している。東京商工リサーチの集計によると、その数は5月15日現在8,711人に上り、前年同期(4,654人)の約2倍に上っている。実施した企業数は19社で、前年同期より8社減ったものの、1社あたりの募集数が多い大規模な人員削減が増えている。これらの企業の大半は黒字だ。黒字でも人員削減を断行する。
パナソニックホールディングス(HD)は5月、国内で5,000人を削減すると発表した。海外を合わせると1万人規模に上る。中小型液晶メーカーのジャパンディスプレイ(JDI)は6〜8月に希望退職を募り、国内従業員のおよそ半数にあたる約1,500人削減する。マツダは50〜61歳の正社員を対象に、500人の退職者を募集する。ロームは3月までに200人規模の希望退職を実施した。このほか、抜本的な経営再建に取り組む日産自動車は国内外合わせ2万人を削減する方針を公表している。
リーマン・ショック、東日本大震災、新型コロナウイルス禍など、過去の大規模な早期・希望退職は、経営環境が悪化した時期だった。ところが、今回は明らかに違う。2025年に早期・希望退職が判明した上場企業19社のうち、約6割の12社は直近の決算で最終利益(単体)が黒字だった。これらの企業に共通しているのは「固定費構造に大きくメスを入れないと再び成長に転じることはできない」との判断なのだ。
トランプ米政権の高関税政策や世界経済の減速などにより、今後見込まれる業績悪化に備え、中長期的な競争力を確保するため、黒字のうちに徹底して余剰人員の削減を進めようというものだ。
日本はあらゆる産業で深刻な人手不足が指摘されている。ところが、その一方で大手の上場企業では余剰人員の圧縮へ早期・希望退職を募っている。この容易ではない連立方程式を、矛盾なく上手に解く手立てはないものか?