水産物輸出 中国抜きの市場開拓が大事 疑問含みの再開

日中両政府は5月30日、中国への日本産水産物の輸出再開に向けた手続き開始で合意した。この背景には、日本との関係改善を望む中国側の意向がある。1月に米国のトランプ政権が発足して以降、関税を巡って米国との対立が続いている習近平政権は、アジアの周辺国との関係改善を急いでおり、今回の輸入再開に向けた動きもその一環だ。
ただ、中国が本気で日本との関係改善を望んでいるのか疑わしい部分もある。現実に5月30日の中国外務省の副報道局長は原発処理水を「核汚染水」と呼んでいる。中国も参画した海水などのモニタリングで厳しい数値をクリアしていることが証明された後も、引き続き日本の原発処理水を核汚染水と表現し続けているのだ。また、輸入再開というが、日本産全体がOKというわけではなく、福島など10都県は除外されているのだ。あくまでも、いわば条件付き輸入再開に過ぎない。
とはいえ、巨大市場の中国の日本産水産物の輸入再開は、日本の水産業にとって追い風となる。水産事業者からは輸出再開への期待の声も出ている。しかし、今回の突然の中国による日本産水産物の全面禁輸措置で、水産事業者も壊滅的な打撃を受け、多くのことを学んだはずだ。
中国市場は常にいつ、日本として承服できない理由で、どうなるか分からないリスクがつきまとう市場だということを念頭に置くことだ。このため、中国側の需要増要請に応えすぎないことだ。中国の輸入停止を受けて、この間必死で当該事業者は東南アジアや米国など別の国・地域への販路の開拓を進め、ようやく他ルートを構築しつつある。中長期的に、これを引き続き強化・育成していくことだ。決して、一方的に中国側の意向に振り回されないことが大事だ。
現実に冷静に「販路が増えることで、良い条件の買い手と交渉することができる」とか、別の販路を確保した企業からは、中国への輸入が再開されても「すぐに中国への輸出を再開することは難しい」との声もある。

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