日本製鉄の1年半余りにわたる米鉄鋼大手USスチールの買収交渉は6月18日、決着した。同社は約2兆円を投じUSスチールの普通株全株を取得し、当初の目標通り完全子会社化することで契約を締結したと発表した。しかし、その内容は米国政府が、重要事項について拒否権を行使できる”黄金株”をトランプ政権のもとだけでなく、今後永続的に保持するという厄介な条件がついている。これで、日本製鉄に成算はあるのか?と問いたい。
①社名変更②本社移転③本社機能の移転④2028年までに約1.6兆円の設備投資の削減・撤回・延期⑤生産や雇用の米国外への移転⑥設備改修など通常の一時停止を除く工場の閉鎖や休止⑦米国外での原料の調達ーーなどすべて米国政府(トランプ政権)の同意なく進めることが禁止されているのだ。
これらの禁止事項をすべて順守し、日本製鉄は経費節減はじめ効率的な、本来進めるべき、大胆な設備投資などきちんとした経営が果たしてできるのか?普通に考えれば、そのほとんどが経営の足かせ、重荷になる可能性がある。それでも、この無謀とも思われるプロジェクトを、極めて高い代償を払ってでも進めたことは、それなりの理由があるのだろう。
この点について、日本製鉄の橋本英二会長は19日記者会見し「経営の自由度と採算性は確保されている」、USスチール買収は「日本製鉄が世界一に復帰するために必要な戦略だ。USスチールにとっても、再生する唯一の方法だ」として、協業に自信を示した。
橋本氏は世界一に復帰するためにというが、今回の買収の結果では世界ランキングでは第4位にすぎない。トップの中国メーカーとの差は限りなく大きい。要は目指すのは内容なのだろう。鉄鋼製品でも自動車用など高付加価値・高級品分野での米国市場を念頭に置いた発言と受け止めておきたい。
ただ、それでもここで指摘しておきたい。やはり、この試みは無謀な挑戦の部類に入るのではないかと。4、5年後、約束した過大な設備投資と営業赤字の累積に陥った同社が、同プロジェクトからの撤退を懸けた米政府との火花が散るような交渉をする事態にならなければいいが、との懸念を拭い去ることができない。